「性的マイノリティに対するパワーハラスメントと事業主の配慮」そして 「パートナーシップ宣誓制度」など(2026.9.1)

(パワハラ防止指針)
 正確には、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」という名称になります。長い法律名ですが、そのまま指針の目的を体現していると思います。
 2020年(令和2年)、労働施策総合推進法(正確には「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」)の改正に基づき制定されたもので、事業主に対して職場のパワーハラスメントへの予防措置や相談体制の構築などの措置を講じることを義務付けました。
※大企業では令和2年6月1日から施行され、中小企業については経過措置を設け、令和4年4月1日からの施行とし、それまでは努力義務とされていました。

 パワハラ防止指針では、職場におけるパワーハラスメントに該当する代表的な言動として6つの類型を列挙しています。
 イ 身体的な攻撃(暴行・傷害)
 ロ 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
 ハ 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
 ニ 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の 
           妨害)
 ホ 過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を
           命じることや仕事を与えないこと)
 へ 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

(性的マイノリティ当事者に対するパワーハラスメント)
 パワハラ防止指針では、職場におけるLGBTQなどの性的マイノリティの方に対するハラスメントとして、6つの類型のうち、「ロ 精神的な攻撃」及び「へ 個の侵害」について「該当すると考えられる例」として具体的な内容が明記されています。

・ロ 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
  (イ)該当すると考えられる例
    ① 人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・ジェンダー
                      アイデンティティに関する侮辱的な言動を行うことを含む。

・へ 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
  (イ)該当すると考えられる例
    ② 労働者の性的指向・ジェンダーアイデンティティや病歴、不妊治療等
                     の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に
                     暴露すること

 後段の「個の侵害」の例は、いわゆる『アウティング』に当たります。
 アウティングに関しては、同級生から性的指向をクラスのLINEグループに暴露されてしまった大学院生が転落死したことについて、大学側の教育環境配慮義務違反が問われた「一橋ロースクールアウティング事件」という代表的な裁判事件があり、判例では「アウティングは人格権・プライバシー権を侵害する不法行為に当たる」ことが示されています。
 アウティングを含めたハラスメントが職場で発生した場合には、事業主は職場環境配慮義務に基づく法的責任が問われる可能性に留意する必要があります。

(「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて」提言)
 これは、日本経団連が2017年に公表したLGBTQに関する提言になります。
 少子化による人口減少や企業活動のグローバル化の進む中、経済の持続的成長を図るためには、これまでの工業化時代に適合した「金太郎飴」的な同質な人材・組織に代わり、性別・年齢・国籍・障がいなどにかかわらずに幅広い人材を迎え入れ、その能力を最大限発揮できるダイバーシティ・インクルージョン社会の実現が急務であるとし、それを実現する上での重要なファクターであるLGBTを身近な存在として理解、受容し得る「LGBTフレンドリー」な社会を目指すことが提言されたものです。
 そして、今や大企業や多くの組織で、LGBTQ+などの性的マイノリティを理解、支援する「アライ(Ally)」や、働きやすい環境をつくる「LGBTフレンドリー」としての様々な取組が急速に広がっています。
※LGBTQ+について
・Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、出生時の性別や、その性別に期待されるあり方とは異なる性別で生きている人)Questionin(クエスチョニング、自らの性のあり方について特定の枠に属さない人、わからない人、決めたくない人)の頭文字をとった言葉がLGBTQになる 加えて「+」を付けることで、「L・G・B・T・Q」に当てはまらない多様な性までを表現する

 性的マイノリティをはじめとする多様なバックグラウンドを持つ人々の集まる環境の下では、これまでになかった新しい視点によるイノベーションの創出や生産性の向上などが期待できます。
 さらに、会社がひとり一人の個性を尊重するという姿勢を示すことは、社員の組織に対する帰属意識やエンゲージメントの向上につながるとともに、自社のイメージアップにも貢献することで、人材の定着や人材獲得における強力なアピール要素にもなるといえます。
  
(LGBT理解増進法)
 日本経団連が比較的早くからLGBTへの配慮や対応に関する取組を開始するなど経済分野では着実に進展する一方で、上部構造としての政治・法律面においては、東京オリンピックの開催を前に、「人種や宗教などと並び、性的指向(SexualOrientation)を理由とするいかなる差別も禁止する」オリンピック憲章の精神に基づく差別禁止法や理解増進法の提案が模索されながらも、結局、頓挫するなどの紆余曲折を経て、ようやく2023年6月、LGBT理解増進法(「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」)が成立しました。
 しかしながら、このLGBT理解増進法は理念法にとどまり、国や自治体、事業主等に対して、性的指向や性自認に関する理解増進のための施策や普及啓発等の取組を明記してはありますが努力義務とするなど、当事者を含めた関係者の間からは、実効性確保のためにも罰則を含めた「差別禁止法」の制定まで望む声もあるようです。

(地方自体におけるパートナーシップ宣誓制度)
 「パートナーシップ宣誓制度」は、戸籍上の性別が同じ二者間の社会生活における関係を「パートナーシップ」と定義し、一定の条件を満たした場合にパートナーの関係であることを証明する「パートナーシップ証明書」を発行するというものです。
 2015年渋谷区と世田谷区において全国に先駆けて実施されました。
 2019年には都道府県単位としては、はじめて茨城県で実施され、その後、多くの都府県でこの制度が導入されています。
 また、政令指定都市では、20都市すべてでこの制度を導入しております。
 最も身近なところから住民の意見を汲み取ることができる地方自治体レベルからはじまったこの制度は、今や全国的な取組となり、着実に国民の間に理解され、浸透しつつあることは間違いないでしょう。

  余談になりますが、わたくしは、前職が茨城県職員であり、人権施策推進室という部署において、人権をテーマとした普及啓発の仕事もしてまいりました。
 人権課題の一つには性的マイノリティも含まれており、性的マイノリティであることを理由とする偏見や差別解消のための理解の促進などの業務も行っておりましたが、まさにこの「いばらきパートナーシップ宣誓制度」の推進も担当しておりました。
  在職中に特に力を入れたのが、宣誓制度のさらなる推進を図ることを目的として、県単位(点)の展開にとどまっている現行制度を都道府県単位での自治体間連携により面的展開を図る取組を進めることでした。 
 全国的にみると、当時から、すでに市町村レベルでは隣接する複数の市町村間で連携する取組がはじまっており、政令指定都市レベルにおいては指定都市市長会の場で連携を進める方針が決定されるなど連携の機運が高まっていた時期になります。
 しかしながら、あくまで市町村単位での連携のため、地図上ではまだら模様のままであり、県単位での制度の導入が図られれば一気に塗りつぶされ、市町村の連携の手間も解消されることになります。  
 県単位での自治体間連携としては、2022年(令和4年)8月、佐賀県と茨城県との間で全国ではじめて取り交わされています。
 その後の進捗ですが、茨城県のHPをみると、令和8年8月1日現在で、22都道府県278市町村との間で連携が進んでいる模様です。関係各位の御尽力に深く敬意を表する次第です。

(結びにかえて)
 少し前になりますが、経済産業省がおこなったトランスジェンダーの職員に対する女子トイレの使用を制限する(執務室とその上下の階の女子トイレの使用を認めずそれ以外の階の使用を認めることとした)措置等に対し、最高裁が違法性を認める判断をくだした判例(「経済産業省トイレ使用制限事件」最三小判令和5年7月11日)があります。 
 判決がなされた令和5年7月11日時点では、前月にLGBT理解促進法が成立、施行された時期ではありますが、この事案は2015年の人事院判定が争点となり、判断基準は2015年になるわけですが、この時点で、事業所では職場の状況や本人の意向等を踏まえた個別具体的な配慮(職場環境配慮義務)が求められるということを前提とした判断がなされたものと考えられます。
 法制度の整った現在では、事業主におかれては、就業環境の整備や相談体制の確保など、雇用する労働者の性的指向や性自認に関して、より一層の理解増進に努める必要があるといえるのではないでしょうか。

 また、職場に性的マイノリティの当事者がいるかいないかにかかわらずにこれらの理解増進やパワハラ防止の対策には不断の取組の努力が求められるところです。
 これも、私の人権施策推進室在職中のはなしになりますが、LGBTの方の多くが学生時代から身体的かつ精神的に苦しい思いをしているとのお話を当事者の方から伺ったことから、大学等におけるLGBTに対する理解・支援のためのガイドラインの作成に関しての協力依頼に県内大学を訪問したときに、ある大学の関係者から「うちには対象者はいませんから参加しません」と明確に参加を断られた大学が1校だけありました。
 日本国内における性的マイノリティ(LGBTQ+)の割合は、これまで実施されてきた民間調査結果では、おおむね3~8%前後という結果があり、これは、左利きの人の数やAB型の血液型の人の数と同じ割合であるとか、名字の上位6位(佐藤・鈴木・高橋・田中・伊藤・渡辺)を足した人口割合と同じになるともいわれているところです。
 なかなかなか声をあげられないでいるというのが実情ではないでしょうか
 生きづらさを感じている性的マイノリティ方が自分らしく生きることができる社会の実現に向け、わたくしたちはまず相手を正しく理解し、偏見や差別をなくすことが求められていると思います。
 

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